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知見

消費者に誤解をうまないようにするには、どうすれば良いか ? (Vol. 1)

以前、あるテレビ番組で椅子の耐久性をデモテストすることになり、出演者が椅子の上で飛び跳ねたところ、「耐久性試験をクリアしているはずの椅子が、たった数回の実験で壊れ」てしまい、これは問題だということで一騒動となりました。

当時の報道記事によると、この椅子は「座面に100キロ、背もたれに30キロの荷重を5万回加えてテスト」で合格していたとありました。

JIS規格上での耐久性の規格としては JIS S 1203:1998 「家具−いす及びスツール− 強度と耐久性の試験方法」に於いて「座面の耐久性試験」、「背もたれの耐久性試験」といった項目があり、「座面への荷重が 950 N、背もたれには 330 N」となっています。 これを単位換算すると、それぞれ「97 kgf、34 kgf」となるので、件の報道記事のテストと近い値といえます。

因みに「5万回」という回数の負荷もは同JIS規格上にある区分「1~5」の丁度真ん中の区分3に相当します。 (さらに付け加えれば、JIS S 1032:2016 「オフィス家具―椅子」では『スツール以外のオフィス用椅子について、区分3を椅子の試験方法とする』と指定しています。)
ここまでの所では、数値としては概ねJIS 規格にある数値に合致しているように思えますが、ではなぜ番組中に壊れたのでしょうか。

ここで重要となる要素がもう一つあり、それは「試験の方法」です。
先述の耐久性試験について、JIS規格では「荷重の条件は、毎分 40 サイクルを超えない速さ」とあります。 つまり「3秒で2回のペースを超えないような早さで押す」という指定で、「繰り返し荷重をかけても、製品の変形や破損の点は大丈夫なのかを確認する為の試験」を想定しています。 即ち、テレビ番組のデモテストにおけるような、「人が飛び乗ったり上で跳ねたりするような衝撃荷重」とは全く異なる状況に関する規格なのです。

一方、耐衝撃性については、同 JIS S 1203:1998 上で「座面の耐衝撃性試験」が別途定められています。 しかしこの試験は「25 kgの『座面衝撃体』を最も厳しい区分5でも高さ 300 mm から座面に落とす」という指定であって、おそらく「成人男性が椅子の上で飛び跳ねる」という極端な状況下に於ける耐久性の試験をJIS規格が既定している訳ではないでしょう。

こういったJIS等の工業規格の数値や適切な試験方法等の話はメーカーの設計者やサプライヤーの品質管理部門の人には当然のこととして知られているものですが、例えば商品の広告担当部門の人が耐久性の規格数値と想定されている試験方法(加重負荷の方法)までの正確な理解を持っているかについては、むしろ知っているほうが少ないと考えたほうがよいと思われます。 また、(テレビの演出サイドも含めて)工業規格における試験内容を承知していない一般の人たちが「耐久性試験をクリアした椅子」と聞いて、「象が踏んでも大丈夫な椅子」とまでは思わずとも、「人が飛び跳ねても十分に大丈夫」な耐久性があると思い込んだとしても、あながち可笑しなことではないのかもしれません。

こういった専門家と一般消費者との間に時として生ずる認識の不一致の問題に対する現実的な対処法は、「商品説明、取扱説明の表記の中に、飛び跳ねる等の濫用を明示的にわかり易く禁止しておく」ことが最低限必要であるとはいえます。 「 商品パッケージや店頭POPなどでの表現も、誤解を生まない」ように配慮する必要があります。 そういった領域まで、各担当者、責任者が品質マインドを持って取り組むことの必要性をあらためて思い知らされる出来事でした。

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