「矛盾」を飼い慣らす、モノづくりの知恵
最近、SNSで「意外なものを温めたら美味しかった」というアレンジレシピを見かけます。 飲料業界でも昔から、冬の市場を狙った「ホット炭酸」という大胆なアイディアは挑戦があり、実際に2013年には発売されていました。 しかしながら、液中にガスを留めることと高温化は二律背反の壁に阻まれ、実現は簡単ではなかった様です。
二律背反 ~「あっちを立てれば、こっちが立たず」というトレードオフ ~ はモノづくりでも頻繁に出くわします。 壊れにくいけど分解し易い、剥がすのも張り直すのは簡単だけど剥がれにくい、腐りにくいけど廃棄時には自然に還って欲しい等、性能や品質への要求が多方面からある限り、これは宿命の様なものです。
先のホット炭酸飲料の場合、飲料となる水溶液の温度が高くなると炭酸が抜ける速度が速くなってその際に炭酸の泡が発生したり消えたりする現象も活発になるため、下手に作ると自販機で買って開封するや否や泡が吹き出る羽目になる点が問題でした。 しかし、炭酸と高温という両立困難そうな関係を繋ぐ別の因子が実はあり、それは液体の表面張力でした。 そして表面張力は液体の組成 ~ つまり何をどのぐらい入れるかのレシピ ~ でコントロールできるのです。 自販機から出てきた飲料を開栓してから飲み切るまでに炭酸が維持できるよう、丁度良い具合に徐々に抜ける表面張力を狙って原料配合比などを調整していったといいます。
一見してわからないところにも二律背反は潜んでいます。 例えば、現代人の相棒であるスマートフォンの「高い防水性」と「クリアな音質」の両立もまさにそれ。 水を一滴も入れないようスマホを鉄壁の守りで密閉すると、実は空気の振動である音までも閉じ込めてしまい、頼りない音しか響かなくなってしまいます。
この矛盾を突破したのが、ある開発者の機転でした。 目をつけたのは、医療用などで使われていた特殊な「多孔質フィルム」。 水滴の数万分の一というナノサイズの微細な穴により、水は通さずに空気の振動だけをスルーさせることに成功したのです。
無理難題に対して「じゃあ、これで試してみよう」と異分野の技術を手繰り寄せる探求心。 これこそが、私たちの不便を快適に変える品質管理のブレイクスルーなのだと感じます。