現場力 × 想像力

弊社には、消費者からのクレーム対象となった事故品が持ち込まれる。 カビらしき異物がある、容器が割れていた、プラスチックバッグが破れる、ブランド品のバッグが色落ちした、靴のせいですべってこけた、指輪が変形した、指輪が変色した、バッグに異臭がする、ジャケットの色がインナーのシャツに移った、電化製品が発火した、などなど。

事故品の検査、あるいは正常品との比較検査を実施すると、ある程度の原因判断 (原因仮説) がつく。 “ある程度”というのは原因仮説は立案できるが、原料、製造工程、物流工程、販売工程、持ち帰り工程、消費者利用状況、事故品の回収工程、などに関する情報量によっては、“ある程度”の確度でしか原因を特定できないからだ。 しかし、ここは過去のクレーム経験からあたりをつけて原因仮説を出し、改善策を提言するのが強みとなる。

原因分析後は、再発防止のためにどのような解決アクションをとるべきか、が課題となる。 これは複雑。 というのも、原因には、根本原因とトリガー (引き金) 原因があり、解決策も原因を取り除くのか、追加策で打ち消す (緩和・完全防止) のか、があるからだ。 根本原因を取り除くことが効率・効果的なのか、トリガー原因を取り除く方が効率・効果的なのか、あるいは、取り除かずに、発生の可能性を低減させる追加策を実施すべきなのか、あるいはそれらを複数実施、全て実施…。 これは時間・経済性・実行可能性が評価軸となり判断される。

ところで、話が脱線するが、「小賢は山陰に遁し、大賢は市井に遁す」という言葉がある。 賢い人は山に籠って勉学に励むが、更に賢いひとは市井 (現場) に出て経験し学ぶということ (だと思われる) 。 ここにあるメッセージは、現場から離れオフィスに留まらず、現場を見よう・知ろう、ということ。 組織の上層部であろうと同じ。 現場を知る者が課題解決力を発揮・リードしやすく、組織を維持・成長させやすいはずだ。

事故品の分析において、“ある程度”の確度をより高めて、原因はこれだ! と判断するには、素材選定、工場や検品場や倉庫、販売リアルチャネルなどの現場を経験していれば (=現場力) 効率的だ。 現場を知っていることは強い。 確かにそうだ。

しかし、現場を知ることは、それ自体が物理的・時間的に制限されるし、経験が、記憶に残るインパクトとして強いがために固定観念となり、例えば、たった1回あるいは数回の例外経験が“世の中”・“恒常的”と判断してしまうリスクもある。 経験した状況と“今”が異なることもありえる。 一歩引いて、経験のみに固執せずに、俯瞰的に“森を見て”原因を求めることも同時に重要だ。 ひとりの人間で出来ない場合、経験豊富・経験志向な人材と、経験は少ないが俯瞰的・網羅的に一連の状況を想像でき、抜け漏れを提言できる人材の合わせわざが品質管理組織を強くする。 まさに、現場力×想像力。

世の中に無いような新カテゴリー商品や、自社にとっての新カテゴリー商品では、そもそも経験だけには頼れない。 消費者はどのような利用をするだろうか、製造時にどのような不具合が起きえるだろうか、検討の際のガイドとなる思考フレームに頼るのだろうが、やはり想像力がカギになる。 Wiiのコントローラーが投げつけられる、結果、何かを割る、などは想像力が、紐をつけるべき・取り説などで注意喚起すべき、などのアイデアをくれたかもしれない。

繰り返しになるが、経験に頼るだけではパワーは限定的。 「賢者は歴史に学び、愚者は自分の経験にたよる」という言葉もあるように、経験値だけでは解決力が大幅に狭まる。 経験でき、それを記憶でき、バイアスがかかっていない、実態も変わっていない。 これらの条件は限定的に見える。 経験をある程度しながら、それをレバレッジして何が起きているかを俯瞰的に想像する力、この現場力×想像力の両方が事故品の原因特定・再発防止、未然防止には重要と思えるのだが、いかがだろうか。

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