“諫言太夫”ミーティングで品質向上

商品検査・品質管理において、問題の無かったはずの前例が問題となることがある。 品質管理にかかわらず人間の営みでは、過去踏襲で効率的に物事を進めがちの中、当然、前例がくつがえることはある。 よくある、のか、たまにあるのか、いずれにせよ、関連活動に対する多大な損害につながるかもしれない。 確かに、過去・前例踏襲は必要な“スキル”ではある。 効率、スピードの視点に立てば。 しかし、競合が変化し、消費者が変化し、その他外部要因が変化する中で、常に前例踏襲してよいのだろうか。 このような疑問を持ち、常に“それをしている”理由を確認するマインドも必要だ。 過去が“今”正しいとは限らない。 導入前に検査し合格となった定番商品がなぜかクレームとなっている。 ●●税関では許可された同一品が、■■税関ではとめられた。 財団法人▲▲検査協会が、こうやっているから同じようにやっているが、必要性を問われて回答できない。 以前はこの基準をクリアしていれば消費者からクレームはなかったが…。 前回と同じクレームだから、原因も同じだろうと思ったが…。 何も気にせず前例踏襲していたが、そもそも法律にひっかかっていた…。 雑音がするのが当たり前と思っていた商品。 競合はもう静かだった…、など。

これらの事例は、当然ながら問題発生となってから認知する。 “前例を疑ってあえて問題を見つけるプロセス”はあまりビジネス活動に組み込まれない。

いつの時代だか知識は無いのだが、中国には皇帝の側近に“諫言太夫”なるポジションがあったらしい。 トップの思考・行動に対して、苦言を呈したり、反論したり、戒めたり、要はトップにいちゃもんをつける存在だ。 非常に重要。 中国の当時の為政者は賢いかぎり。 権力がもたらす暴走を止めえる一つの手段として、人間関係・上下関係の中で実行しづらい役回りを、やらざるを得ない業務として与えている。

経営コンサルの方々にはDevil’s Advocate (わざと反対意見を述べるという意) という言葉があるようで、日々の議論の中で、全員がこの役回りをしているのだろうと想像される。 スキルとして自然にそうなれるにせよ、故意に役割を担わせるにせよ、非常に重要な役割だ。

反論の役目は、ビジネスの成功には必要不可欠。 反論の壁を超えてこそ、そのアイデアの実現確度が高まるというもの。 つまり、最適なオプションを選定でき、関連メンバーの自信増にもつながる。 さらには、そのアイデアに対する熱意を測る指標となる。 これぐらいの反論でくじけるようなら、そんなにやりたいわけでないのだろう、ということだ。 もちろん人間、人格などの批判ではなく、より成功をチームで獲得するがための“アイデア”に対する反論だ。

品質管理においても前例・現状に対してあえて反論する場を定期的に設けてもよいだろう。 今までは問題無く来た商品ではあるが、ここであえていちゃもんをつけよう、ということ。 この商品の問題、製造・物流・通関・販売プロセスの問題は何か? 問題が現実化する前に修正しておくべきことはないか? 当たり前と思っている部分は何か? など。

定番品や長期ヒット商品などを対象に、 “諫言太夫”・“Devil’s advocate”ミーティングが継続できると、日々のビジネスにおいてもチームにそのような視点や議論の場が自然と生まれる。 もちろん、このミーティングを実施しても、防げないことはあるが、事故が発生しても過去が常に正しいわけではない、との想いで、その解決に向けたより建設的な検討・実行につながるはず。

こうなるとしめたもの。 日々のコミュニケーションにおいて、上長からだろうが、部下からだろうが、新人 (無知のパワーがある) からだろうが、反論のレビューが恒常的にできると、そもそもの“あやまち”が防げ、品質向上につながるはず。 “前例を疑ってあえて問題を見つけるプロセス”を限定的な商品 (ロングランヒット、定番、高売上商品、など) で年に1回? 半年に1回? など定期的に組み込む。 すべての商品にやる必要はない。 非効率。 狙いは、メンバーの“諫言”スキルを向上させるラーニングの場として位置づけ。 一度 (では、効果無い? 長い目で)、試してみてはいかがだろうか。

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