色落ちするシャツを売れる力

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例えば、シャツの品質の良し悪し(品質検査の結果)を問われると、回答は、例えば、「これは色が落ちやすい。すごく縮む。取引規格と比較するとNG」、などとなる。

品質検査は、色が落ちやすいことや寸法が変化することを明確化することを、法令や工業規格、業界団体が規定した規格にもとづき試験する。「摩擦による色落ちが2級です。汗による色落ちが3級です。洗濯したらタテ方向に3.4%縮みました。」など。 関係者が合格であるとの理解を共有すると、メーカーから卸へ、卸から小売りへ、小売りから消費者へ、「シャツ」は届けられる。 不合格だと、製造改善なのか採用不可なのかということになる。

関係者が取引の前提とする決められた基準がある場合、しかもそれが日本工業規格(JIS)や法律などの公の基準に沿って品質を確認して、合格している/していないか、ということであれば恣意性の余地は無く、明確な判断ができる。

しかし、次のようなケースは悩ましい。 「公の基準に沿って品質を検証したら、摩擦による色落ちがひどくて関係者で合意している規格と比較すると不合格」になった。 この場合、売ってはいけないのか? 当然、法律要求を満たしていないとダメだが、法律ではない基準の場合は果たして売ってはいけないのか?

採用不可は簡単だが、販売することによって社会に価値を提供できると信じている事業者はどうするのだろう? ここに喜ぶ消費者が充分なボリュームいる(と認識している)・これぐらいの色落ちは気にしない消費者・健康被害ではない・他の衣類に色が移る可能性はあるが洗濯で落ちるレベル・洗濯できないものに色が移ると確かに厄介だが果たしてその可能性はどれくらいあるのか…。 このような場合に、どういう視点で議論し、判断すべきなのか。

我々は検査する会社で判断を求められる立場にはないが、判断する事業者と一緒に考えることはある。 従って、「自分がその立場だったらこう判断する。 こういう対応と合わせればGOだ。 いやいやこれはNGだ」とシュミレーションする。

この商品のターゲットは? (性別、年齢、属性、使用方法、使用頻度、想定されるイレギュラー使用は何か、ターゲット層の価値観、製品への期待感、など)、そのターゲットが接する属性は? (赤ちゃん? 小さい子、など)、価格は? チャネルは? (どこで、いつ、どのように、など)、取扱説明書・表示・POPの内容、相対販売/マス販売(リスクを説明できる機会はある)? 競合品の品質は? テストマーケティングの可能性は(提供領域の場所、時間、量的限定性のコントロールは可能)? 想定売上・利益は? 最悪事態は何? そのコスト・社会的影響は? 最頻度事態は? そのコスト・社会的影響は? などなどが検討を要するポイントかと考えている…。

“公的”な基準に基礎をおきながら自社の「規格」・「基準」を制定し、関係者で合意し、組織として効率的に事故・クレームを未然に排除し、“適切な”品質の製品を消費者に届ける。 これがあるべき姿。 そして、プラスして、「規格」・「基準」に固執することで、世の中へ様々な種類の価値提供の機会を失っている可能性もある、と考える力、「規格」・「基準」を超えて判断する力も養えたらと思う。 「規格」・「基準」にそもそも合格しえない製品でも社会に価値を提供できる場合もある。

検査会社ではありますが、製造者、輸入者、卸、小売の皆様と議論しながら日々、このような考える力・判断力も切磋琢磨していきたい。

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