“レモン”が増えている? 増えてしまう?
イヴサンローランのトートバッグに関するTVCF、電車内広告、書店やコンビニでの販売品を目にした。 価格の記憶が定かではないが、1,500円を切っていた記憶がある。 ローコスト製造に驚愕、企画・マーケターの方々のアイデアやブランド側の新たな取り組みに感心。 ただ、高級ブランドがライセンスばらまき(?)により、目先の利益を求めたブランド下方拡張により、エンドースしていたブランドそのもののパワー( = 高くても買いたいと思う意識に好影響を与えられる、そのブランドがタッチポイントを通じてかもしだす特徴的なイメージの総和、とでも定義しよう) を喪失し、中長期的には利益が喪失しないかとも心配。 立て直し ( = パワーの復活) に多大な費用を要す。 イヴサンローランではなく、正確にはコスメのサブブランドのトートバッグとも認識できるが、一般消費者にとっては同じことだろう。ふと心配になった。
ただ、消費者も賢いので、この相対的に安いバッグに対し、それはそれ。 買うかどうかを悩むほどの値段でも無いし、どうせトートバッグは必要だから、この値段なら買ってもいいか。 別にこれが本当のイヴサンローランだとは思わない…との考えだろう。 ブランド使用を許可するブランド側も馬鹿ではない。 キャッシュを稼ぐために、数回、トライしてみよう。 同時に消費者調査なども効率的・経済的に定期的に実施し、ブランド毀損の兆しを見極めよう、ということなのだろう。 さすがに継続し過ぎて、長きに渡り形成した高級ブランドのパワーを、しかもブランド好き(?)の日本では多くの高級ブランドで本国に次ぐ稼ぎマーケットとなっている。 このブランド価値を喪失させるような本末転倒の愚策はとらないはず。 イヴサンローランばかりでなく、ロエベのサブブランドでの1,000円を切るトートバッグもあるようだ。 他のブランドも同様な施策を打ってくるのだろうか? 企画者・マーケターのデフレ下で稼ぐアイデアに強く関心しながらも、やはりブランド毀損が気なるところ。
もうひとつ気になることがある。 ブランド毀損と同じことを違う側面から眺めることになるのだろうが、“レモン”が増えることである。
レモン理論やレモン市場と呼ばれる経済用語がある。 レモンはすっぱいので、申し訳無いが、粗悪品の意味(で使われるらしい。米国では)。 製造・販売側と消費者の間には、購入前に大きな情報ギャップがあり、購入前にギャップを埋める活動はなかなか、なされない。 従い、粗悪品を粗悪品と見極められないため、粗悪品は品質的に問題の無い良品質品と同じ価格で販売される。 粗悪品を購入・経験してしまった消費者は、あるいはその経験談を口コミなどで認識した消費者は、その後、当初の価格では買わなくなる。 これを認識した製造・販売側は次のロットや次の同等品で価格を下げざるをえなくなり、低価格・低品質の商品が増えていく。 ざっとこんなフローのはずだ。
冒頭のトートバッグにからめて説明すると、高級寄りのイメージを持つブランドABCが安い製品 (トートバッグ) を市場に出した場合、それは何らかの理由で安いのであり、当該ブランドの“本来”の商品品質とは明らかに違うはずだ。 ブランドABCの製品がこの値段ならば、多少、劣悪でも仕方ない、と思って消費者は最初は買うだろうが、何らかの事故・実害を被った場合 (腐ったレモンに出会ってしまった場合)、次に許容できる価格が下がる。 「このブランドABCなら、2,000円でお買い得と思ったけど、次からは1,000円ぐらいじゃないと買わないな。 ブランドXYZも同じだ。 1,000円切らないと買わないな」、ということ。 従って、レモンが増えていく。販売者も同じく、消費者調査や購買データから消費者心理を学習していくと、「2,000円では売れない。 次は1,000円だ。いや、1,000円切りだ」となる。 レモンが増えていく…。
その要求を受けるメーカー側が大変だ。 ローコストで製造するが、劣悪品は世に出さない、との責任感を持って日々、相当な知力・体力を使われている。 中国や東南アジアの品質マインドは日本側とはまだまだギャップがある。 食品や玩具は日本の法律が厳しく品質維持を要求しており、合格しなければ輸入できない。 情報有利にある製造・販売側に規制し、レモンを市場に出さないようにコントロールするあるべき姿。 法的要求がレモンに対する必須の打ち手。 しかし、法律要求が無い/少ない、あるいは事故が起きた後に要求される“雑品”では、レモンが市場に出る可能性は相対的に高くなる。 製造側の自主的な強い責任感が求められる。 もちろん、これが無ければ納品先から発注がなされず、ビジネスが継続せず、稼げず、社会に貢献できない。 そのためにも多大な努力がはらわれている。 しかし、製造・販売者の間の情報ギャップのみならず、中国側と日本側の情報ギャップ、中国におけるそもそもの品質管理力が不足するあるべき姿からのギャップ、とギャップのオンパレード。 事故の可能性が高まり、レモンが増え、低価格に拍車がかかる。 どうだろうか、製造側の努力にもかかわらず、このデススパイラルがマーケットで起きてないだろうか。 そして、レモンが飽和すると消費者から飽きられる、買われなくなる。 あるブランドのデフレ下での短期的な稼ぎ策が、積み重なって、いずれ売れなくなる。 自社ブランドの毀損と同時にマーケット全体のピークの見極めが重要になろう。
将来がどうなるかは別にして、各種ギャップが存在する中、検査会社の使命は、法律要求の有無にかかわらず、クライアントと一致団結の協力体制で、レモン(腐ったレモン)の防止に責任感を持って取り組んでいくこと。 消費者が安心して商品を購入・使用し、人生を豊かに過ごすことに貢献すること。製造・販売者と同様に努力をつづけなければならない。